ひろくかいびょうでん
大映
配給:大映
製作年:1969年
公開日:1969年12月20日 併映「眠狂四郎卍斬り」
企画:勝呂敦彦
監督:田中徳三
脚本:浅井昭三郎
音楽:渡辺宙明
撮影:今井ひろし
録音:海原幸夫
照明:美間博
美術:太田誠一
編集:山田弘
音響効果:倉嶋暢
擬斗:楠本栄一
助監督:遠藤力雄
製作主任:村井昭彦
語り手:木村元
現像:東洋現像所
出演:本郷功次郎 小林直美 亀井光代 戸浦六宏 上野山功一
アメリカンビスタ カラー 83分
享保十四年、八代将軍吉宗の頃。九州佐賀三十七万石鍋島丹後守の城中で世にも信じられぬ一つの怪異が起こった。丹後守は、野点で見かけた竜造寺又七郎の妹・小夜の美しさに心を奪われ、側室として迎えるために近習頭の小森半左衛門を又七郎の屋敷へ向かわせた。半左衛門は又七郎の兄妹と幼友達だったこともあり、小夜の心を考えずに無理強いすることだけは避けたいと考えていた。竜造寺家は三代前までは佐賀の領主だったが、些細なことで皇太后の勘気を被り、領主を家臣筆頭の鍋島に取って代わられた。今ではお情けで生かされているが、いかに落剥しているとはいえ妹を側室に差し出す気など又七郎には毛頭なかった。彼はこの話を断わったときの半左衛門の立場を心配した。そこで「妹は不調法者ゆえとても殿のお相手など叶わぬ」と伝えて欲しいと言った。家老矢淵刑部は言い出したら一歩も引かない丹後守の性格を知り尽くしていた。今までは刑部の妹であるお豊の方に執心していたが、小夜に心変わりすれば自分に対する威信の失墜もありうるからだ。そこで彼は半左衛門が帰るのを待ち、又七郎の返事を聞きだして殿に取り次いだのだった。一方的に断わったと刑部が伝えたことで丹後守の怒りは心頭に発した。
絹糸のような雨が降る夜、丹後守から碁の相手をせよとの申し出があり、気が進まないのなら止めた方がいいと小夜は言ったが又七郎は受けることにした。又七郎が迎えの駕籠に乗ろうとしたところ、いつもなら彼のそばにいるはずの愛猫のタマが先回りして威嚇するのだ。何故そんなに機嫌が悪いのだろうかと不思議に思いながら又七郎はタマを抱きかかえ小夜に渡した。盤上の勝負は明々白々、盲目の又七郎の方が丹後守より一枚も二枚も上手だった。そこで丹後守は気を逸らすために小夜のことを考え直さぬかと切り出した。だが又七郎は動じずに、小森殿に伝えた通り妹は不調法なゆえ殿のお相手などと答え、碁の続きを促した。苛立ちを見せた丹後守は益々形勢が悪くなる石を打ち、それに気付くと慌ててしばし待てと言った。だが又七郎は、盤上の争いは真剣の立会いと同じことと殿はいつも申されているではありませぬかと聞く耳を持たなかった。さらに又七郎の補助としてついていた刑部が石を誤魔化して置いたことまで指摘し、一時の勝ち負けにこだわって下賎匹夫の振る舞いをなされてはなりませぬぞと言った。その言葉に丹後守は立腹し刀を抜いたのだった。
夜が明けても又七郎は帰ってこなかったため、小夜は半左衛門に相談した。だが何の手掛かりも得ることが出来ず彼女は不安になるばかりだった。その夜、戸の開く音が聞こえ、小夜は兄が帰ってきたものとばかり思っていた。だが薄暗い部屋にはタマが持ち込んだ血のついた衣類の一部が置かれているだけだった。そのとき部屋に荒々しく入ってきた目付役郷田甚左衛門は、鍋島家からの温厚を台無しにした竜造寺家の知行召上げ並びに場外への追放を言い渡したのだった。
絶望に追い込まれた小夜は決心した。人の生血を吸った猫は魔性となり通力を持つという噂を信じ、愛猫に復讐を託したのだった。小夜は腹を切り、苦しみの中でタマに語り掛けた。「早く私の生血を吸って魔性となり、鍋島家に祟るのじゃ」。タマは小夜のそばに近寄ると赤い血を舐め始めた。そして彼女の最後を見届けると暗闇に消えて行った。
屋台的映画館
PR