おくまんちょうじゃ
青年俳優クラブ
配給:新東宝
製作年:1954年
公開日:1954年11月22日 併映「最後の女達」
監督:市川崑
企画:本田延三郎
脚本:市川崑
脚本協力:安部公房 横山泰三 長谷部慶次 和田夏十
音楽:団伊玖磨
撮影:伊藤武夫
美術:平川透徹
録音:安恵重遠
照明:平田光治
編集:河野秋和
助監督:小林大平
製作主任:浅野正孝
出演:木村功 久我美子 山田五十鈴 伊藤雄之助 信欣三
スタンダード モノクロ 83分
日本の新名所・数寄屋橋付近の交差点では、少女・鏡すてがか弱き平和を守るためには原爆を作らなければならないと民衆に訴えていた。その頃、小菅刑務所の牢屋の中では、汚職事件で逮捕された与党議員・団海老蔵が新聞に名前が載ることの意義を同罪で捕まった同僚や野党議員に向かって高らかに語っていた。同じ頃、赤坂料亭では芸者・花熊が他の芸者集の前で心得を長々と説いていた。一方、羽田飛行場では海外視察という名目で3ヶ月間の観光旅行を行うアルマイト会社社長・東太賀吉が家族や社員たちに見送られていた。銀座にある日本一正確な時計台の時計はまもなく25時を指そうとしていた。白昼であるにも関わらず。時計が狂っているのだろうか。それとも人間の方が狂っているのだろうか。
K区税務署徴収課に勤務する正直で無口で小心者の舘香六は、鶴亀葬儀社の二階に間借りしている。毎日同じように電車に揺られて出勤する舘は、いつものように税金の徴収に出掛けた。彼が向かった先は、通夜が行われているアルマイト工場だった。社長の東太賀吉が乗った旅客機は欧州に向かって飛行していたが、ヒマラヤ山脈に衝突し墜落したのだ。航空会社の社員が危険な遭難現場から持ち帰ったひしゃげたスプーンを妻・山子は遺骨代わりにして大切にした。それは東が見本として持ち歩いていたスプーンだった。舘は霊前に手を合わせると、山子に昨年度の税金が納められていないから困っていると切り出した。すると山子は困っているのはこっちだと反論した。派手好きの社長は万事宣伝の世の中だと言って借金してまで旅行を計画した。傷害保険がもらえることになっていたが、借金返済や十八人の子供の生活費、そして工場を運営するには到底足りないと主張した。舘は、それでは僕が困るし署長も困ると言った。彼は税金が使われる仕組みを山子にゆっくりと説明した。
舘が次に向かった先は国会議事堂の近くにある贋家だった。妻・はんは舘から受け取った名刺を見るなり大声で笑った。ここでも税金を徴収することが無理だとわかった舘は、自宅から持ってきた手弁当を食べながら夫婦の話を聞くことにした。主の贋十二は三年前まで写真所を経営していたが、その収入だけでは十八人の子供を養うことは出来なくなった。そこで店を手放して収入の多い仕事を手当たり次第に始めたがうまく行かなかった。贋家には家族の他に下宿人の鏡すてが住んでいた。二階を間借りしてるすては一年半程前から家賃を払っていなかったが、かわいそうな境遇に置かれていたことを知っていたため追い出すことが出来なかった。彼女は材料や薬品を持ち込んでは研究に没頭していた。はんは、それが原爆であることを舘に話すと、驚いた彼は放射能の及ばないとされる東京から123.5キロ離れた沼津まで走って逃げた。
屋台的映画館
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