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初恋(2006年)

  • posted at:2011-12-07
  • written by:砂月(すなつき)
はつこい
ギャガ・コミュニケーションズ
配給:ギャガ・コミュニケーションズ
製作年:2006年
公開日:2006年6月10日
監督:塙幸成
製作:宇野康秀
エグゼクティブプロデューサー:河合信哉 星野有香
Co.エグゼクティブプロデューサー:三宅澄二
プロデューサー:水上繁雄 松岡周作
アソシエイトプロデューサー:朴木浩美 梅川治男
製作エグゼクティブ:依田巽
原作:中原みすず
脚本:塙幸成 市川はるみ 鴨川哲郎
撮影:藤澤順一
音楽:COIL
音楽プロデューサー:穂苅太郎
主題歌:「青のレクイエム」元ちとせ
挿入歌:「ブルー・シャトウ」 ジャッキー吉川とブルー・コメッツ
・・・:「スワンの涙」 オックス
・・・:「白い色は恋人の色」 ベッツィ&クリス
美術:斎藤岩男
録音:山方浩
照明:上田なりゆき
編集:冨田伸子
出演:宮﨑あおい 小出恵介 宮﨑将 小嶺麗奈 青木崇高
アメリカンビスタ カラー 114分

1966年。高校生一年生のみすずは、入学してからしばらくの間は学校が終わると新宿御苑で門限までの時間を潰す日々を送っていた。ある日、みすずは話しかけてきた見知らぬ男に突然仰向けに押し倒された。駆けつけた警察官が男を引き剥がし愚考は未遂に終わったが、彼女はその間抵抗することが出来なかった。警察署で事情を聞いた警官は家の者に連絡しようとしたが、みすずは頑なに拒み「いないから、そんなの」と言った。家に帰ってもみすずの居場所はなかった。彼女の父親は幼い頃に亡くなり、母親も兄だけを連れて家を出たため、一人残されたみすずは親戚の家に引き取られた。しかし新しい生活に馴染めないみすずは家族の誰とも口を利かなかった。家の中で彼女は孤立していった。

あの事件以降、彼女の足は新宿御苑から遠ざかり、繁華街をあてもなく歩いた。6月のある日、授業を終えたみすずは何度となく立ち止まったことのあるジャズ喫茶の前に立っていた。彼女の手には「B」と赤い字で書かれたマッチが握られていた。「この間も来てただろう?店の前でうろうろしていると補導員に捕まるよ」。声を掛けてきたのは、アングラ劇団に所属する女優・ユカだった。みすずはユカの言葉に導かれるように店内に入っていった。ユカが向かった先は入り口から見えない一番奥の席だった。「可愛い女子高生をナンパしてきたよ」とユカがたむろする男たちにみすずを引き合わせた。そこにいたのは、人望が厚く年齢性別関係なくモテる亮、浪人中にも関わらず学生運動に熱心な作家志望のタケシ、腕力が自慢のテツ、お調子者の高校生・ヤス、そして亮の親友というだけで「B」に入り浸る岸の五人だった。岸がみすずに子供が何の用だと冷たく言うと、戸惑うみすずは大人になんかなりたくないと言い放って店を出て行こうとした。すると岸はみすずの左腕を掴み、合格だと言った。その日以来、みすずは授業が終わると「B」に通い続けた。社会から阻害されていると感じて生きてきた彼女はついに居場所を見つけたのだ。そして他の仲間とは違うクールな岸に自分と同じ孤独という匂いを感じ、次第に惹かれていった。みすずが「B」へ来るきっかけを作ったのは亮だった。帰宅途中のみすずの前に現れた亮は、唐突に「俺、覚えてないか…」と言った。彼はみすずが小さいときに離ればなれになった兄だった。別れ際に亮は、何かあったら連絡しろよとマッチを渡した。

1968年。学生運動は熾烈を窮め、介入する機動隊も過激さを増していった。時代の波は「B」の仲間たちをも飲み込み、小競り合いに巻き込まれたヤスは隊員から歩行が困難になる程の暴行を受けた。ヤスを助けようとして負傷した亮とテツは、岸から泣き寝入りするのかと言われ憤慨した。翌日、みすずは人に聞かれたくない話があるという岸とラブホテルに入った。岸はこれからの話は他言無用だと切り出し、「B」の連中にもだと続けた。守れるかと聞かれたみすずは黙ってうなずいた。彼は他の連中と同様に権力を憎んでいるが、暴力で訴えても権力にとっては痛くも痒くもないと言った。頭で勝負をしたいという岸は、みすずに「おまえが必要なんだ」と言った。誰からも必要とされたことがなかったみすずにとって岸の言葉は何よりもうれしかった。彼女は岸の頭の中にある無謀な計画に参加することにした。

屋台的映画館
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ユリシス

  • posted at:2011-11-25
  • written by:砂月(すなつき)
ゆりしす
アイ・シー・エフ
配給:ビデオプランニング
製作年:2006年
公開日:2006年9月23日
監督:丹羽貴幸
製作総指揮:福永誠二
プロデューサー:齊田春日 三木和史
脚本:なるせゆうせい
撮影:高間賢治
企画・デザイン:荒井昇
音楽:MOKU
エンディングテーマ曲:「N.Y」より子
美術:石毛朗
照明:上保正道
録音:塩原政勝
ヘアメイク:鷲田智樹
衣裳:沢柳陽子
視覚効果:松本肇
編集:丹羽貴幸
助監督:佐藤英明
制作担当:田島啓次
制作:ビデオプランニング
企画制作:オフィスサイタ
出演:奥菜恵 斎藤工 林剛史 澁谷武尊 矢島弘一
アメリカンビスタ カラー 50分

千影の息子・紫は願いを叶えてくれる不思議な蝶の話が好きだった。青い蝶ユリシス。あの子は何処へ行ったのだろう。ユリシスを探しに行ったのだろうか。青い蝶がいる世界の反対側に行ったのだろうか。そうだ私も探しに行こう。紫のいる場所へ。

幼なじみのサライとミチルは、大学生活最後の思い出を作ろうと夏休みを使ってオーストラリア・ケアンズにやってきた。二人は到着してから一日中、現地の女性を口説こうとがんばったが、誰も彼らには目もくれなかった。そこで今度は空港にいる日本人に狙いを絞ることにした。翌日、車で空港に乗りつけ到着したばかりの日本人観光客をナンパすることにし若い二人を乗せることに成功した。するとミチルはその後からきた暗い瞳をした女性に何故か惹かれ、それに気づいたサライは彼女も同乗させた。そのおかげで先に乗った二人が怒り出し、ミチルが犠牲となって殴られたのだった。

サライたちはまだ予定が決まっていないという千影を楽しませようと市内を案内することにした。だが彼女の心は別のところにあった。世界の反対側にきたのに、青い蝶は何処に隠れているのだろう。紫は何処に隠れているのだろう。世界の果てまで行けば会えるのだろうか。世界の果てを越えないと会えないのだろうか。

車の中で掛け合い漫才のようなやりとりをする仲のいい二人をうらやましく思っていた千影は、ふと紫の言葉を思い出した。僕、夢の中で青い蝶になったよ、と。どっちが本当なんだろうか。こっちの世界で紫が青い蝶の夢を見たのか。反対側の世界で青い蝶が紫の夢を見たのか。私は何処にいるのだろう。すると突然、千景は車を停めてと叫んだ。青い蝶が飛んでいるように見えたからだ。だがそこには荒涼とした風景が広がっているだけだった。

ドライブインで食事をすることになり、サライは衝動的な行動を取った理由を千景に尋ねてみることにした。そしてそこで初めて彼女が不思議な蝶を探していることを知ったのだった。願いを叶えてくれる青い蝶について何か教えて欲しいと言われたことで、現地の人なら何か手がかりがあるのではないかと考えたミチルは、早速店主に聞いてみた。その結果、ユリシスという蝶は実在し、熱帯雨林の深い森の中に生息しているというのだ。翌日から三人による蝶探しの旅が始まった。

屋台的映画館

網走番外地(1965年)

  • posted at:2011-11-15
  • written by:砂月(すなつき)
あばしりばんがいち
東映(東京撮影所)
配給:東映
製作年:1965年
公開日:1965年4月18日 併映「関東流れ者」
監督:石井輝男
原作:伊藤一
脚本:石井輝男
企画:大賀義文
撮影:山沢義一
音楽:八木正生
主題歌:「網走番外地」高倉健
美術:藤田博
録音:加瀬寿士
照明:大野忠三郎
編集:鈴木寛
助監督:内藤誠
進行主任:白浜汎城
現像:東映化学工業
出演:高倉健 南原宏治 丹波哲郎 安部徹 嵐寛寿郎 
シネマスコープ モノクロ 92分

極寒の地、北海道・網走駅に手錠と腰縄でつながれた受刑者たちが降り立った。彼らはトラックの荷台に乗せられ網走刑務所に収監された。その中の一人、橘真一は傷害事件を起こして服役した。真一が子供だった頃、未亡人だった彼の母・秀子は、幼い二人の子供を養うために好きでもない国造と再婚した。国造は働きもせずに一日中飲んだくれ、秀子が稼いだ金は皆酒代に消えていった。そして自分に気に食わないことがあれば、誰彼かまわず暴力を振るった。それから十数年後、国造は妹のみち子に向かって仕事は半人前で飯だけは三人前だと言った。それを聞いて腹を立てた真一は、国造を押し倒して馬乗りになると釜の飯を国造の口に無理矢理押し込んだ。真一は勘当を言い渡され家を出て行った。兄の後を追いかけたみち子は、秀子から預かった財布を手渡した。財布の中には秀子が貯めたなけなしの金が入ってた。真一は、母に何処へ行っても一生懸命やるから心配するなと伝えて欲しいとみち子に言った。上京した真一は、関東竜神一家に拾われた。渡世の義理を果たすために秩父一家に乗り込んだ真一は、先夜のお礼に参りましたと言い放つと親分を斬った。

懲役三年を言い渡されていた真一は「八人殺しの鬼寅」の弟分と称す依田が牛耳る雑居房に入れられ、外の作業では雪国の過酷な労働を強いられた。それから二年が経ったある日、真一が新入りを分け隔てなく扱おうとしたことに依田と権田が難癖をつけた。そう先輩風、吹かしなさんなという真一の言葉に憤った依田は、その夜、真一が寝入ったことを確認すると権田とともには襲い掛かった。騒ぎは大きくなり、駆けつけた刑務官は三人に懲罰房行きを命じた。その後、真一は真面目に作業をこなしていたが、同じ房の受刑者たちは点数稼ぎだと挑発した。意地を張った真一は検身所で騒動を起こし、再び懲罰房へ入れられた。懲罰房に真一を訪ねてやってきたのは保護司・妻木だった。妻木は刑務官から彼の評判を聞き仮釈放の手続きをしていたが、その矢先の騒動にとても残念がった。自分の過ちに気付いた真一は、母親に一目だけ会えるように取り計らって欲しいと妻木に頭を下げた。真一は秀子が乳がんを患い先が長くないことを妹の手紙で知っていた。そこで息のある間に今までの極道を詫びたいと妻木に請うたのだ。妻木はできるだけのことはするから短気を起こすなと橘に言った。

真一の母親への思いは日に日に強くなっていった。その頃、依田たちは脱獄する計画を練っていたが、成功させるには真一の力を必要とした。そこで依田は権田を使って真一を口説き落とすことにした。手紙が来る度に元気がなくなる真一に、権田は抜けようと思えばチャンスはいくらでもあると言ったが、真一は冗談言うなと聞く耳を持たなかった。みち子の手紙には衝撃的な事実が書かれていた。母の命は今年いっぱい持てばいいと医者に言われていたが、国造は死ぬとわかっている病人に薬代をかけるだけ無駄だと言って酒場の女のところへ言ったまま帰ってこなかった。秀子は真一に何も知らせてはいけないとみち子に口止めしていたが彼女には出来なかった。いきさつを知った真一の心は大きく揺れ動いていた。

屋台的映画館

プライド in ブルー

  • posted at:2011-11-04
  • written by:砂月(すなつき)
ぷらいどいんぶるー
バイオタイド=パンドラ
配給:パンドラ
製作年:2007年
公開日:2007年7月14日
監督:中村和彦
製作:松井建始 中野理恵
プロデューサー:太田裕輝 鈴木政信
アシスタントプロデューサー:中田真也子
製作アシスタント:中村クミ枝
音楽:HΛL
エンディングテーマ:「翼」KΛNΛ
音楽協力:スマイルカンパニー ヘキサゴン
撮影:比留川伸 中村和彦
撮影(日本のみ):遠藤一彰
撮影(ドイツのみ):月村圭
VE:玉手久也
通訳:村瀬靖昌
編集:矢船陽介 藤掛順子
整音:ヒガ・アーツ&メタル株式会社
現像:株式会社ヨコシネディアイエー
製作協力:コダイ 東京シネ・ビデオ
ナレーター:寺田農
アメリカンビスタ カラー 84分 

2006年6月、FIFAワールドカップがドイツで開催され、日本代表チームは3大会連続で出場を果たした。そして8月、同じドイツの地でもうひとつのワールドカップ「INAS-FID(国際知的障害者スポーツ連盟)サッカー世界選手権」が開催された。知的障害者のサッカー世界一を決めるこの大会は、1994年にオランダで初めて開催された。その後、第3回大会以降はワールドカップ開催国で行われることが決まり、2002年は本大会閉幕後の日本で開催された。日本チームは2002年大会から正式参加し、4回目を迎える2006年ドイツ大会では、20人の代表選手が選出された。

No.1 加藤隆生(GK)
No.2 宮原優樹 
No.3 斎藤秀平
No.4 若林弥
No.5 黒木勝
No.6 中山身強
No.7 浦川優樹
No.8 金指雅巳
No.9 邊田光夫 
No.10 野沢雄太
No.11 長島幸佑
No.12 高野孝一
No.13 斎藤友宏
No.14 出雲井恭兵
No.15 小西一義
No.16 飯室省吾
No.17 松本裕一(GK)
No.18 菱木一大
No.19 原田裕一
No.20 高橋祐貴

秋田大学教育文化学部附属養護学校に通う加藤隆生選手は、静岡県・御殿場で行われた日本代表候補のトレーニングキャンプに参加した。彼は2002年にワールドカップが日本で開催されたときにもうひとつのワールドカップがあることを知った。それまでは自分に自信が持てなかったが、夢に向かって挑戦することに決めたのだ。日本ハンディキャップサッカー連盟(JHFA)のゴールキーパーコーチ・柳沢繁は、初めて加藤選手を見たとき通常の高校生よりもレベルが高いことに驚いたのだった。足りない部分を強化し、今ある技術をより伸ばしていけば日本のゴールを安心して任せられると考えていた。

2006年8月23日から三日間、ドイツ出発前の最終調整であるJHFAの成田合宿が行われた。小澤通晴監督のもとに集まった選手たちは皆、様々な事情を抱えていた。だが彼らの心は、日本代表として誇りを持って世界と戦うという目標に向かって一つになっていた。

屋台的映画館

ひとごろし

  • posted at:2011-10-29
  • written by:砂月(すなつき)
ひとごろし
永田プロダクション=大映映画=映像京都
配給:松竹
製作年:1976年
公開日:1976年10月16日 併映「妖婆」
監督:大洲齊
製作:永田雅一
製作協力:徳間康快
原作:山本周五郎
脚本:中村努
企画構成:細井保伯
企画:金丸益美 西岡善信
撮影:牧浦地志
音楽:渡辺宙明
美術:西岡善信
録音:渡部芳丈
音響効果:倉嶋暢
照明:美間博
編集:山田弘
監督補:小林正雄
助監督:奥家孟
俳優事務:内海透
製作担当:徳田良雄
製作助手:長谷川小夜子
計測:竹内幹雄
記録:野崎八重子
スチル:小山田幸生
擬斗:楠本榮一 美山晋八
装置:渡辺善太郎
背景:京田新治郎
装飾:藤谷辰太郎
衣裳:伊藤ナツ
美粧:湯本秀夫
結髪:石井ヱミ
美術助手:加門良一
照明助手:石原喜三
録音助手:渡部一比児
編集助手:永富勲
現像:東洋現像所
協力:高津商会 山崎かつら 劇団あすなろ
出演:松田優作 高橋洋子 五十嵐淳子 丹波哲郎 岸田森 
スタンダード カラー 82分

越前福井藩のお抱え武芸者・仁藤昂軒は、藩公が江戸で見出した剣術と半槍の名人で、毎日家中の者に稽古をつけていた。剣術と半槍の腕は紛れもなく第一級であり、稽古のつけかたも厳しくはあるが本筋だった。しかし酒癖が悪く、暇さえあれば酒を飲み、酔えば決まって乱暴した。昂軒に不満を持つ藩士たちは、暴れ馬に乗った家老の息子を助けだした件を例に上げ、今後さらに勢力を伸ばして藩公の側近として仕えるようになるのではないかと心配していた。よそ者をこれ以上のさばらせてはいけないと考えていた彼らだったが、それを封じる手段は何もなかった。

福井藩きっての臆病者といわれている双子六兵衛は、まんじゅうが大好きで犬が大嫌いだった。少し大きな犬がいれば、いつも道をよけて通った。そんな頼りない兄を持つ妹のかねは、同世代の娘たちが見合いをしたり、付け文をもらっていることをうらやましく思っていた。かねは、兄妹揃って縁談の話がないのは兄上が臆病者などと呼ばれているせいだと言った。時々そう思ったと言う六兵衛に、かねは臆病者の汚名をすすぐための何かをなさったらいかがですかと問いかけた。すると六兵衛は、道に落ちている財布を拾うようなわけにはいかないと答えた。兄の性格を知っているかねは、拾ってみられたらとやさしく言った。

城内では不穏な空気が流れていた。藩士数名が昂軒に闇討ちをかけようと画策していたのだ。事態を重くみた小姓・加納平兵衛は現場へ赴き沈静しようと努めたが、藩士とともに惨殺されてしまった。昂軒がかわいがっていた平兵衛を斬った上に断わりもなく藩を出て行ったことは、わしに刃を向けたも同然だと藩公は激怒した。そしてわが藩の面目にかけて上意討にいたせと配下の者に言い渡した。誰が討手となるかという詮議になったが、相手が昂軒だけに皆迷った。家中にこれなら確かだという者も見当たらないし、名乗り出るものもいない。かといって人数を組んで向かうのは藩の面目に関わる。どうしたものかと評議しているところに名乗り出たのは震えながらやってきた六兵衛だった。そして冷や汗をかきながら、私に討手をお命じくださいと言った。討ち死にであれば恥の上塗りだと一人が言った。しかし他の一人は同意しなかった。六兵衛が臆病者だという話は昂軒の耳に届いているかもしれない。もしその臆病者が討手に来たと知ったら昂軒はどう思い、どう行動するだろうか。彼は思わずニヤリとした。

帰宅した六兵衛は、かねに旅支度だと叫んだ。かねは世間の嘲笑に耐えかねて、いよいよ夜逃げする気になったのかと冗談まじりに言ったが、御上意の討手を仰せ付けられたという六兵衛の言葉にクスリと笑った。まさか兄上にそんな大役が務まるはずがないと思っていたかねは、「上意討之趣意」と書かれた奉書の包みを差し出されると顔色を変えた。上意討の相手がお抱え武芸者の仁藤昂軒だと知ったかねは、やめて下さいと懇願した。六兵衛は昂軒とは違い剣術の稽古もろくにしたことがなかった。その兄が名乗り出た原因は自分にあるとかねは反省した。いつも不平や泣き言ばかり言うことが六兵衛の心変わりをさせたのではないかと考えていたのだ。かねは、兄上に死なれるよりは臆病者の妹と呼ばれる方がいいと説得したが、六兵衛は何事もやってみなければわからないと励ました。

太陽の照りつける北国街道を江戸に向かって歩き続けた六兵衛は、三日目に昂軒の姿をみつけた。背丈が高く、逞しい体つきは後からみただけでわかった。恐怖は彼の心臓を高鳴らせ、全身を揺さぶった。六兵衛は気持ちを落ち着けようとして持っていた水をがぶ飲みした。六兵衛が汗を拭き拭き歩いていると、突然うしろからちょっと待てと呼びかけられた。男は、きさま福井から来た討手だなと言った。六兵衛が振り返ると、そこには昂軒が立っていた。昂軒が、おれの首が欲しいか、勝負してやるから来いと叫んで槍を構えると、六兵衛は慌てふためいて悲鳴をあげた。「ひとごろし!」。そして夢中で逃げ出しどこまでも走った。息苦しくなった六兵衛は松林の中でぶっ倒れた。これからどうしようかと思案していたとき、村人たちの話し声が聞こえてきた。人殺しってほんとかと一人が言った。すると、相手は鬼のような凄い浪人者だともう一人が言った。誰か殺されたのかと最初の声が聞くと、うまく逃げた、逃げる方が勝ちだからなと二人目が言った。そして、何しろ十人や二十人は殺したような面構えだから、往来の衆も震え上がっててんでんばらばら逃げていったとそこで起こった様子を説明した。六兵衛は考えていた。世の中には肝の座った名人上手よりも、おれやあの百姓たちのような肝の小さい臆病な人間の方が多いのだろうな、とすれば、とすれば。そして立ち上がると、よし、これだとつぶやいた。

六兵衛は茶屋に入る昂軒をみつけた。彼は、昂軒が腰掛けに腰を下ろし編笠を脱いだところを見計らって大声を張り上げた。「ひとごろし!その侍はひとごろしだぞ。越前福井で人を斬り殺して逃げてきたんだ。いつまた人を殺すかわからんぞ。危ないぞ」。茶店の老婆や客たちは、その声に驚き逃げ出した。

屋台的映画館

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