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拳銃無頼帖 抜き射ちの竜

  • posted at:2005-03-09
  • written by:砂月(すなつき)
けんじゅうぶらいちょうぬきうちのりゅう
日活
配給:日活
製作年:1960年
公開日:1960年2月14日 併映「刑事物語 殺人者を挙げろ」
監督:野口博志
企画:浅田健三
原作:城戸禮
脚本:山崎厳
撮影:永塚一栄
音楽:山本直純
主題歌:「黒い霧の街」赤木圭一郎
・・・:「一対一のブルース」西田佐智子
録音:福島信雅
照明:高橋勇
美術:大鶴泰弘
編集:辻井正則
助監督:宮野高
現像:東洋現像所
色彩計測:上田利男
特殊撮影:天羽四郎
製作主任:野村耕祐
技斗:高瀬将敏
出演:赤木圭一郎 浅丘ルリ子 宍戸錠 香月美奈子 沢本忠雄
シネマスコープ カラー 86分

男たちに命を狙われる剣崎竜二は麻薬で意識が朦朧としていた。だが「抜き射ちの竜」の異名を持つ彼の体は夜のプラットホームで待ち伏せる男たちに反応し、次々と右肩を討ち抜いたのだった。勝負を終えると竜二は地面に崩れ落ち、もがいた。ひと月後、竜二は退院できるまでに回復したが、それは院長・志津吾郎の献身的な治療によるものだった。志津に朝刊を渡され、宮地組の組長が行方不明になっていることを知った竜二は、誰が奴を始末したんだと叫んだ。すると志津は、宮地に拳銃を先に抜かせた君の気風に惚れた男だと静かに答えた。悪行を尽くした大ボスである宮地の殺害を依頼したのは志津だったが、治療費を含めた莫大な費用を肩代わりしたのは、竜二を男を刑務所へ入れることは惜しいと考えた男だった。

宮地組が解散し一匹狼となった両刃の源は志津を脅し、竜二を出せと凄んだ。さもなくばこの病院が裏で行っていることをばらすというのだ。いつでも表に出てやるぜと奥の部屋から飛び出してきた竜二を止めたのは、楊三元の遣いでやってきた用心棒のコルトの銀だった。銀は銀座で待つ楊のもとへ竜二を連れて行こうとしたが、それならばちょっと寄って欲しいところがあるんだと言った。ボクシングジムに立ち寄った竜二は弟分の三島圭吉に会おうとしたが、タイトルマッチで八百長が発覚し行方を晦ましていたのだ。竜二はショックを隠せないまま目的地へ向かった。

銀座の洋装店・ルガーでは楊の他に堀田組組長・堀田重三郎の姿もあった。楊は麻薬密輸組織のリーダーで堀田に麻薬を売りさばかせていたが、粗いやり方に危険を感じていた。そこで販売手数料を引き下げるなど手を切る方法を画策していた。堀田と因縁にある竜二を呼んだのもそのひとつだった。楊は竜二を用心棒として雇い入れようとしたが、自首をして足を洗うつもりでいた竜二は断わった。彼は「抜き射ちの竜」という名前を捨てるために、麻薬に手を染めたのだ。楊が拳銃を撃つと、竜二の体は無意識に反応していた。口車に乗せられて二度と銃を握らないという誓いを破った竜二は、殺しだけはやらないという条件で了承した。相手の利き腕の肩を撃ち抜き、拳銃を握らせないようにするのが竜二のやり方だった。

竜二は楊の指示に従って416号室を訪ねた。そこはファッションデザイナーでルガーの名義人でもある真木房江の部屋だった。房江は部屋に招き入れて誘惑したが、人の気配を感じた竜二がベッドルームのカーテンを捲ると三島が寝ていた。思わぬ再会に竜二の怒りは爆発した。何故八百長をやったのかと問い詰めたが、三島は真実を口にしようとはしなかった。やがて三島は苦しみ始め麻薬漬けになっていることを知ると竜二は愕然とした。

屋台的映画館
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どら平太

  • posted at:2005-03-05
  • written by:砂月(すなつき)
どらへいた
「どら平太」製作委員会(日活=毎日放送=読売広告社)
配給:東宝
製作年:2000年
公開日:2000年5月13日
監督:市川崑
製作総指揮:中村雅哉
製作:西岡善信
プロデューサー:猿川直人 酒井実 鶴間和夫 
原作:山本周五郎
脚本:黒澤明 木下惠介 市川崑 小林正樹
撮影:五十畑幸勇
音楽:谷川賢作
美術:西岡善信
照明:下村一夫
録音:大谷厳
調音:大橋鉄矢
編集:長田千鶴子
助監督:小笠原佳文
製作担当:西村維樹 松枝彰
調音協力:斉藤禎一
特別協力:森知貴秀 竹山洋
企画協力:C.A.L
製作協力:映像京都株式会社
出演:役所広司 浅野ゆう子 片岡鶴太郎 宇崎竜童 菅原文太
アメリカンビスタ カラー 111分

町奉行が不明瞭な辞職を繰り返す或る小藩に、新たな後任が江戸から来ることになっていたが、期日を十日過ぎても出仕しなかった。江戸藩邸年寄役・望月武衛門の次男である小平太は上意で町奉行への着任が決まったが、評判は大層悪かった。武芸には長じていたが行状は放埓を極め、道楽者の「どら平太」というありがたくない渾名がついていた。江戸表では望月小平太という名前よりどら平太の方が通りが良いというのが専らの噂だった。

小平太は手酌で飲みながら安川半蔵が調書を読み終わるのを待っていた。「たった十日間でよく調べ上げたな」。そう言って安川が顔を上げると、小平太は「俺じゃあない。仙波が調べたのを整理しただけだ」と言った。小平太は友人で大目付の仙波義十郎に頼み、城下の一角にある濠外(ほりそと)の調査と自身の悪評を流させたのだった。城中にて事務引継ぎのあと評定が行われることになっていた。小平太は城代家老・今村掃部ら重職が長々と行う自己紹介を遮ると、町奉行に仰せ付けられた子細について語り始めた。諸般の改革が進められているものの濠外の問題だけが放任されていると指摘すると、その問題は極めて複雑であり、古くからの特殊な習慣が多いため藩としては手を付けることが出来ないと落合主水正が反論した。その意見は藩としての方針なのかと小平太が掃部に尋ねると、それを聞いた佐藤帯刀が「奉行職は家老の支配に属するものだ。町奉行ごときが御城代に詰問するのは無礼である」と吐き捨てた。新任のくせに礼儀に欠けているなどとざわつく重職たちを小平太が眺め回すと、奉書紙で包んだ書状を取り上げて「御墨付きです」と言った。そして座の中央へ行って書状を開き「上意」と叫ぶと、まず掃部が平伏し、他の重職たちもしぶしぶ倣った。小平太には町奉行の他に特別な役目を与えられていなかった。それを知った内島舎人は、特命がないなら何故、御墨付きなど下されたのかと言った。すると小平太は、殿が濠外の処置がいかに難しいかを御存知だからだと思いますと答えた。どういう意味だと舎人が聞き返すと、小平太はあの区域全体の掃除ですと言った。それを聞いた重職たちは皆絶句した。

城下町の東端には船着きの港があり、一方が海、他の三方は掘割で囲まれ、港橋という橋一つで町とつながっていた。この区域が町から隔絶していることと、船の出入りの多い港であることから、「濠外」は以前から悪徳の巣のようになっていた。宿屋は遊郭そのものだし、博打、密売女、抜け荷の売買などが公然と行われていた。小平太は遊び人になりすまして壕外に潜入した。

屋台的映画館

マジンガーZ対暗黒大将軍

  • posted at:2005-02-22
  • written by:砂月(すなつき)
まじんがーぜっとたいあんこくだいしょうぐん
ダイナミックプロ=東映動画
配給:東映
製作年:1974年
公開日:1974年7月25日 併映「フィンガー5の大冒険」「五人ライダー対キングダーク」「イナズマンF」「ゲッターロボ」「魔女っ子メグちゃん」
演出:西沢信孝
製作:登石雋一
企画:有賀健 旗野義文
原作:永井豪とダイナミックプロ
脚本:高久進
作画監督:角田紘一
美術監督:辻忠直
音楽:渡辺宙明
主題歌:「空飛ぶマジンガーZ」水木一郎
・・・:「グレートマジンガー」水木一郎
原画:奥山玲子 森英樹 木野達児 金山通弘 小田克也 阿部隆 小松原一男 森下圭介 小泉謙三 飯野皓 津野二朗
動画:小川明弘 小林敏明 坂野隆雄 服部照夫 薄田嘉信 田村晴夫  山田みよ 長沼寿美子 久保寺輝彦 白川忠志
撮影:吉村次郎 相磯嘉雄
背景:下川忠海 勝又激 柿沼雅人 新井寅雄 遠藤重義 杉本隆一
トレース:奥西紀美子 五十嵐令子 谷口恭子
彩色:増川千鶴子 藤沢邦子 鈴木玲子 宮城邦子
ゼログラフ:冨永勤 林昭夫
検査:森田博 小椋正豊
特殊効果:林富喜江 岡田良明
編集:千蔵豊
録音:池上信照
選曲:賀川道広
記録:大橋千加子
演出助手:遠藤勇二
制作進行:佐伯雅久
録音スタジオ:タバック
現像:東映化学
製作担当:茂呂清一
声の出演:石丸博也 田中亮一 江川菜子 沢田和子 八奈見乗児
アメリカンビスタ カラー 43分

陽射しの強い真夏の昼下がり、ボスはヌケとムチャとともに海辺で遊んでいた。ムチャから泳ごうと誘われたボスは「こんでーしょんが悪い」と言って断わり続けていたが、彼が泳ぎを苦手としていることは誰の目にも明らかだった。その矢先に空が立ち曇り、ボス待望の雨はやがて嵐へと変わって行った。雷鳴が轟く中、岬には謎の巨像が現れそこに落雷が直撃した。強烈な閃光を浴びて三人は気絶し、再び意識を取り戻した頃には嵐がすっかり収まっていた。雷が嫌いなボスがホッと胸を撫で下ろしたそのとき、廃船の舳先には謎の老人の姿があった。その老人は「この世の終わりを告げる者」と名乗り、「まもなくこの世の終わりが来る。墓場から死者が甦り、そして全世界に不幸を撒き散らすだろう」と言った。そして「全世界を破壊しつくす暗黒大将軍に立ち向かえるのはただ一つ、鉄(くろがね)の城マジンガーZだ」と預言した。ドクターヘル一味を潰滅させたことで、兜甲児と弓さやかは久しぶりの平和を満喫していた。そこへ駆け込んできたのは預言者の言葉を真に受けたボスだった。だが甲児とさやかはそんなことあるわけがないと一笑に付したのだった。その頃、世界では異変が起きていた。空、陸、海から突如現れた巨大なロボット軍団によってロンドン、パリ、ニューヨーク、モスクワなどの大都市が壊滅的な打撃を受けていたのだ。ラジオの臨時ニュースで一報を知った甲児は、「預言者の言ったことが現実に起こったじゃねえか」とボスに責められて言葉を失った。

ミケーネ帝国のゴーゴン大公は、世界の主要都市が破壊されたこと確認してから戦闘軍団を出撃させた。東京へ向かったのは、空からの悪霊型戦闘獣ダンテ、昆虫型戦闘獣ライゴーン、鳥型戦闘獣バーディアン、爬虫類型戦闘獣ジャラガと陸からの猛獣型戦闘獣マモスドン、そして海からの魚類型戦闘獣スラバの6体だった。東京への襲撃を恐れた光子力研究所の最高責任者・弓弦之助教授は、甲児にマジンガーZでのパトロールを命じた。ジェットスクランダーとドッキングしたマジンガーZは空からの襲撃に備えたが、戦闘獣の攻撃力に圧倒された。バーディアンを追い掛けていたマジンガーZは、海面に差し掛かったところで海中から現れたスラバに足を噛みつかれ、海中に引きずり込まれて行った。苦戦しながらも勝利した甲児だったが、無防備となった東京は火の海と化していた。「これはひでえ」。そうつぶやいたとき、ジャラガの毒液でジェットスクランダーの翼は熔かされ、バーディアンの風力でマジンガーZは地面に叩きつけられた。そこに待ち受けていたのはライゴーンだった。その頃、ゴーゴンは次の計画をダンテに命じた。それは富士山の麓にある光子力研究所の潰滅だった。ダンテの攻撃によってバリアを剥ぎ取られた研究所は無残に破壊され、護衛していたさやかのダイアナンAとボスたちのボスボロットも大破した。弓教授は所員に対して地下への避難を命じ、甲児の弟・シローとともに逃げようとした。通路の途中まで避難したシローはあることに気付いた。兄への誕生日プレゼントを置き忘れてしまったのだ。弓教授が止めるのも聞かずに後戻りしたとき、建物が崩壊した。

屋台的映画館

マジンガーZ対デビルマン

  • posted at:2005-02-17
  • written by:砂月(すなつき)
まじんがーぜっとたいでびるまん
ダイナミックプロ=東映動画
配給:東映
製作年:1973年
公開日:1973年7月18日 併映「仮面ライダーV3対デストロン軍団」「バビル2世 赤ちゃんは超能力者」「魔法使いサリー」「キカイダー01」「ロボット刑事」
演出:勝間田具治
製作:登石雋一
企画:有賀健 勝田稔男
原作:永井豪とダイナミックプロ
脚本:高久進
音楽:渡辺宙明 三沢郷
主題歌:「空飛ぶマジンガーZ」水木一郎 コロムビアゆりかご会
美術監督:浦田又治
作画監督:角田紘一
原画:奥山玲子 金山通弘 小田克也 木野達児 菊池貞雄 窪詔之 小松原一男 白土武 中村一夫
動画:森英樹 小林敏明 小川明弘 坂野隆雄 薄田嘉信 服部照夫 阿部隆 長沼寿美子 山田みよ
背景:勝又激 赤保谷アイ子 勝俣公美子 柿沼雅人 福田和矢 牧野光成
演出助手:遠藤勇二
制作進行:吉岡修
トレース:入江三帆子 黒沢和子
彩色:矢部和子 宮城邦子
ゼログラフ:高橋章
検査:小椋正豊 森田博
特殊効果:浜桂太郎 佐藤章二
撮影:平尾三喜 目黒宏
編集:古村均
録音:神原広巳
選曲:宮下滋
音響効果:畑英彦
記録:大橋千加子
録音スタジオ:タバック
現像:東映化学
製作担当:茂呂清一
声の出演:石丸博也 田中亮一 富田耕生 小林清志 里見京子
アメリカンビスタ カラー 43分

機械獣・ザウルスF1とブラッガーS1を率いたあしゅら男爵は、光子力研究所に対し総攻撃を仕掛けた。だがその危機を救ったのは、兜甲児が操縦するスーパーロボット・マジンガーZと弓さやかが操縦するアフロダイAだった。苦戦しながらも勝利した彼らの前に現れたのは空飛ぶ機械獣・デモンガーJ5で、不意打ちの攻撃にアフロダイAは大破した。背後からの攻撃を食らって傷付くマジンガーZだったが、ロケットパンチとブレストファイヤーの連続攻撃でデモンガーJ5を撃破した。さやかの無事を確認して安堵する甲児。その付近にある谷底から甲高い笑い声とともに現れたのは、かつての対戦で絶命した地球の先住民族・デーモン族のシレーヌだった。シレーヌは地球の行く末を予言すると街の方へ飛び去って行った。その様子を監視していたあしゅら男爵は、部下にレーダーで追跡せよと命じた。シレーヌによって東京は破壊された。この異変にいち早く気付いていたのは、人の心と悪魔の力を併せ持つ不動明だった。明はデビルマンに変身してシレーヌを追った。「シレーヌが生き返ったとすれば、魔将軍ザンニンも・・・」。彼の悪い予感は的中した。

あしゅら男爵はドクター・ヘルに突然現れた妖獣について報告した。ドクター・ヘルは超能力をもつ先住民族の話を聞いたことがあったが、それが生きていたことを知らなかった。そこで彼らはデーモン一族とマジンガーZを対決させるためにシレーヌの後を追い、ヒマラヤの山中にデーモンの巣窟があることを突き止めた。そしてあしゅら男爵はマンテスK9を使って氷を砕き、無数の妖獣を掘り出したのだった。ドクターヘルはザンニンやシレーヌたちの胸にテレパシー操縦光線を撃ち込んで妖獣たちを服従させた。ドクター・ヘルは世界征服の野望を阻むマジンガーZを倒すため、ザンニンは悪魔の秘密を知り悪魔の能力を得たデビルマンを倒すために機械獣軍団と妖獣軍団は手を結んだ。

ヒマラヤで悪の取引を見た明は日本へ飛び、初めて会う甲児にマジンガーZの弱点を指摘した。「マジンガーZは空からの敵に弱い。俺なら空から攻めるね」。その言葉に甲児は愕然とした。思い悩む彼のもとに届いた吉報は、マジンガーZが空を飛ぶための翼・ジェットスクランダーが完成したいうものだった。甲児は翌日の飛行テストを心待ちにしていたが、妖獣軍団の突然の襲撃で無残に破壊された。そしてシレーヌによって、さやかと甲児の弟・シローが連れ去られてしまった。

屋台的映画館

Shall we ダンス?

  • posted at:2005-02-11
  • written by:砂月(すなつき)
しゃるうぃだんす
「Shall we ダンス?」製作委員会(大映=日本テレビ放送網=博報堂=日本出版販売)
配給:東宝
製作年:1996年
公開日:1996年1月27日
監督:周防正行
製作総指揮:徳間康快
製作:加藤博之 漆戸靖治 大野茂 五十嵐一弘
チーフプロデューサー:池田哲也
プロデューサー:桝井省志 小形雄二
原案:周防正行
脚本:周防正行
撮影:栢野直樹
音楽:周防義和
音楽プロデューサー:和田亨
主題歌:「シャル・ウィ・ダンス?」大貫妙子
挿入歌:「ラストダンスを私に」大貫妙子
美術:部谷京子
照明:長田達也
録音:米山靖
編集:菊池純一
監督補:山川元
俳優担当:前田哲
製作担当:渡井敏之
プロダクションマネージャー:佐々木芳野
プロデューサー補:有重陽一
宣伝プロデューサー:嵐智史 芝裕子
企画制作:アルタミラピクチャーズ
出演:役所広司 草刈民代 竹中直人 渡辺えり子 草村礼子
アメリカンビスタ カラー 136分

株式会社アイリスに勤める経理課長の杉山正平は、42歳の何処にでもいるような普通のサラリーマンだった。彼は庭付き一戸建てのマイホームを手に入れ、ローンを抱えながらも妻の昌子や娘の千景と一緒に暮らすことが一番の幸せだと考えていた。あの日までは・・・。

杉山は帰りの電車である光景を目にした。ふと窓の外に目をやると、愁いを帯びた美しい女性が雑居ビルの窓から遠くをぼんやりと眺めていたのだ。窓の並びには赤いビニールテープで「岸川ダンス教室」と貼られていた。その表情に心を奪われた杉山は、帰りの電車がビルの前を通るたび女性の姿を目で追うことが日課となっていた。そして一瞬でも姿が見えるだけで心が安らかになった。何とか彼女に近づきたいと思い、雑誌コーナーで目にしたダンス関連の雑誌を購入すると、ついに教室へと向かった。ところが入り口の前に立つと自責の念のようなものが押し寄せ、足が動かなくなった。そこへやってきたふくよかな高橋豊子に突き飛ばされて教室の中に転がり込んだ杉山は、どうしていいかわからずただ突っ立っていた。そんな彼に声を掛けてきたのは、憧れの女性=岸川舞だった。舞はレッスンチケットの説明をしたが、個人レッスンだと一時間で6千円も掛かることがわかり、うなだれた。その様子に気付いた田村たま子が割安のグループレッスンに空きがあることを説明すると、しばらく思案しグループの方を選択した。舞から連絡先を聞かれたが、家族にばれると馬鹿にされると思い明かさなかった。

水曜日の夜8時、シューズを揃えて教室にやってきた杉山は初めてのレッスンに心躍らせた。だが担当は奥から出てきた舞ではなく、たま子であることがわかるとがっかりした。レッスンは杉山の他に、同じく初心者の田中正浩と少しだけかじった程度の服部藤吉の三人で行われた。糖尿病の田中は医者の勧めで、服部はダンスサークルで嫁を見返すためにダンスを習うことになった。そんな正当な理由がある二人に杉山は本音を言うことは出来なかった。

舞は昨年、ダンス大会の最高峰であるイギリス・ブラックプールで行われた全英ダンス選手権に出場した。セミ・ファイナルまで残ったが、その後パートナーと別れてしまった。その彼女といつか踊ることを夢見て杉山は練習に励んだ。社交ダンスという生きがいを見つけたことで彼は変わった。仕事や家庭などあらゆることが楽しくてたまらなかったのだ。その変化にいち早く気付いていたのは昌子と千景だった。杉山は毎週水曜日に決まって帰りが遅くなり、土日も家を空けることが多くなった。遅くなるときは必ずワイシャツから香水の匂いがし、水曜日は同じ匂いだが土日は特定できなかった。そして部屋で一人で身をくねらせているのを娘が目撃していることから、昌子は夫が浮気をしているのではないかと思うようになった。そこで彼女は三輪探偵事務所に調査を依頼することにした。

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