忍者ブログ

幽霊男

  • posted at:2011-07-03
  • written by:砂月(すなつき)
ゆうれいおとこ
東宝
配給:東宝
製作年:1954年
公開日:1954年10月13日 併映「快傑鷹 第二篇 奔流怒濤の巻」
監督:小田基義
製作:瀧村和男
原作:横溝正史
脚色:沢村勉
撮影:山田一夫
美術:北川惠司
音楽:紙恭輔
照明:横井總一
録音:宮崎正信
編集:岩下廣一
監督助手:丸林久信
現像:東宝現像所
製作担当者:森本朴
出演:河津清三郎 田中春男 岡譲司 三條美紀 藤木悠
スタンダード モノクロ 72分

東京・神田神保町の裏通りにあるモデル仲介業・共栄芸術クラブに一人の男が現れた。コートに身を包んだ長髪の客は、黒眼鏡を掛けベレー帽を被っていた。男が差し出した名刺には「佐川幽霊男」と書かれてあったが、経営者の広田圭三はそんな名前の洋画家を知らなかった。しかし紹介者が上得意である医学博士・加納三作であることから断ることが出来なかった。男は五人のモデル、宮川美津子、都築貞子、小林恵子、西村鮎子、武智マリの中から恵子を指名し契約すると、即金で支払い店を出て行った。広田が経営するこの店は、画家や素人写真家にヌードモデルを紹介することを正業としていたが、金と暇を持て余した常連客たちが集まりいつしか猟奇倶楽部という同好会を結成した。彼らは世間で起きた猟奇的な出来事を酒を飲みながら語らうのだ。猟奇倶楽部には加納と元大学教授・菊地陽介、新聞記者・建部健三が所属していた。

貞子はある新聞記事が気になっていた。加納精神病院から患者の津村一彦が看護士の隙を見て脱走したのだ。不気味な男の正体がその患者ではないかと考えていた貞子は、恵子が西荻窪のアトリエへ行こうとするのを止めさせようとしたが、彼女はそれを頑なに拒んだ。恵子は生活に困っていた。その夜、店にやって来た加納はモデルが一人いないことに気付いた。広田は、加納が紹介した客のところへ行ったと説明したが、彼は「佐川幽霊男」という名前に聞き覚えがなかった。心配になった加納たちは、皆で恵子を探しに行くことにした。アトリエには人影がなかったが、恵子が着ていた服が脱ぎ捨てられていた。そしてその奥には真っ赤な血に染まったバスタブに浮かぶ恵子の死体があった。翌日、警視庁の等々力警部は加納を呼び出し事情を聞いた。病院から脱走した津村は特殊な画風であることから「吸血画家」と揶揄されていた。津村は以前、猟奇倶楽部に所属していたことから、等々力は彼が今回の事件に何らかの関わりを持っているのではないかと考えていた。加納は一同を店の一室に集め、幽霊男と猟奇倶楽部が無関係であることを力説した。そのとき、どこからか男の声が聞こえた。カーテンの裏側にテープレコーダーが置かれていたが、それは幽霊男の仕業だった。第一幕が終了し、二幕目の準備ができたというメッセージを聞いた加納は、警察へ通報した。

山田太郎という人物と契約していた美津子は、菊地と、幽霊男に姉を殺された浩吉に守られて青山のアトリエに向かった。ところがタクシーの中で三人は薬を嗅がされ眠ってしまった。停車したタクシーの中で眠りから覚めた浩吉は美津子を探した。そして辿りついた家の中を覗くと、美津子と顔を包帯で覆った男が向かい合っていた。美津子は、どうせ死ぬなら包帯の下の顔を見たいと懇願した。男は帽子と黒眼鏡を外すと包帯を緩め始めた。

数日後、伊豆百花園ホテルで共栄芸術クラブ主催のヌード撮影会が行われた。夕食の時間になっても戻ってこない貞子を心配した鮎子は彼女を探しに行った。鮎子の悲鳴に驚いた加納たちが駆け寄ると、枯れ草の中から人の下半身が突き出し、池には貞子の死体があった。その様子を熱心にカメラに納める男がいた。男は金田一耕助と名乗った。

屋台的映画館
PR
すきーじゃんぷぺあろーどとぅとりのにせんろく
国際スキージャンプ・ペア連盟(東宝=エイベックス・エンタテインメント=IDIOTS)
配給:ファントム・フィルム
製作年:2006年
公開日:2006年1月28日
総監督:真鍋理一郎
監督:小林正樹
エグゼクティブプロデューサー:釜秀樹 穀田雅仁
プロデュース:川村元気
プロデューサー: 中島真理子 八幡麻衣子
アソシエイトプロデューサー:藤村恵子
ラインプロデューサー:河北穣
原案:真鍋理一郎
脚本:真鍋理一郎 小林正樹
企画:川村元気
撮影:吉田誠
VE:高橋慎吾
音楽:宮川弾
主題歌:「Morning glory」伴都美子
挿入歌:「pairs!! ~スキージャンプ・ペア2006公式応援ソング~」宮川弾プロジェクトFeat.清水ゆみ&山本領平ペア
美術:平原道夫
音響効果:井田栄司
助監督:森宏治
製作担当:新藤天朗
出演:谷原章介 志賀圭二郎 益子和浩 益子智行 船木和喜
スタンダード カラー 82分

2000年1月18日、スキージャンプ・ペアがFIJ国際スキージャンプ連盟から正式競技として認可され、2006年2月のトリノ・オリンピッグから正式採用された。この競技は一人の男の発案から始まった。スキージャンプは二人で飛べるはず。しかし、正式認可までの道のりは決して平坦なものではなかった。

1945年、札幌に生まれた原田敏文は、スキーとアインシュタインに夢中になるというわんぱくな少年時代をで過ごした。北海道工科大学に進学した原田はそのまま大学に残り、教授にまで登り詰めた。彼の専門は量子物理学、口癖は「スキージャンプは物理学で説明できる」だった。

原田と妻・絹代の間にはの二人の息子がいた。兄の昭則と弟の道則、双子だった。原田は二人の息子によくアイスを買って帰った。この「チューチューアイス」こそが世界を揺るがす大発見のきっかけだった。ある日、原田はおかしな現象に気付いた。冷凍庫の中に入れておいたアイスの中央部にくびれが出来ているのだ。そして数年後、アイスは更なる変化を遂げていた。原型をとどめない程に変形し分裂していたのだ。原田はこの不思議な自然現象の解明に没頭した。そして「チューチューアイス」の製造工場内で決定的な瞬間を目撃した。そこである仮説を立てた。氷点下で加速飛行する物体の素粒子は分裂する。原田はこれをランデブー理論(特殊飛行体分裂論)と名付けた。しかし学会からはことごとく無視された。その理論は皮肉にも家族を襲った悲劇という形で立証された。

双子の兄弟が5歳のときのクリスマス。サンタクロースからたくさんのプレゼントを貰いたいと考えた二人は、ツリーに大きな靴下を吊るした。翌朝、昭則と道則は靴下の中にスキー板が入れられていることに気付いた。昭則は父親に、スキー板は何故あんなに長いのかと質問してみた。原田は冗談交じりに、神様が二人で乗れるように長く作ったんだと答えた。その返答を真に受けた昭則と道則は、翌日学校の滑り台を使ってスキージャンプを試みた。次の瞬間、二人の体は大きく宙を舞い、遥か彼方の地面に叩きつけられた。およそ50メートル飛ばされた二人は全身を強く打ち重傷を負った。事故によってランデブー理論が正しかったことを確信した原田は、さらに研究に没頭した。

事故から10年後の1995年、マサチューセッツ大学のノーマン・ベイツ教授がランデブー理論を実験で立証した。ベイツの研究室の学生がおやつのアイスクリームと間違って実験用のマウスが入った箱を冷凍庫の中に投げ入れたことがきっかけだった。一ヵ月後、箱を開けてみるとマウスは二匹に分裂していたのだ。そこでベイツは二種類の実験を行った。冷凍庫内の加速器にマウスを固定し20日に渡って毎秒30回転で加速させた。するとマウスは分裂した。さらに風洞下では二匹のマウスの方が一匹のマウスよりも安定することを確認した。この実験から、物質は氷点下では自らを安定した状態に置くために分裂しようとすることがわかった。こうしてランデブー理論の正しさが世界に証明された。原田はすぐさまスキージャンプ・ペア実行委員会を設立したが、世間の反応は冷ややかだった。立証ではなく実証する必要があったのだ。彼は再び大きな壁にぶつかった。 

屋台的映画館

香港パラダイス

  • posted at:2011-06-12
  • written by:砂月(すなつき)
ほんこんぱらだいす
東宝=サンダンス・カンパニー
配給:東宝
製作年:1990年
公開日:1990年4月28日
監督:金子修介
製作:藤峰貞利
プロデューサー:濱田千尋 市村朝一 酒井良雄
共同プロデューサー:藤田義則
アソシエイトプロデューサー:木村典代 加藤克行
原案:サンダンス・カンパニー
原作:望月宙爾
ノベライゼーション:司城志朗
脚本:高橋正康 金子修介 長谷川隆
企画:サンダンス・カンパニー
撮影監督:高間賢治
音楽プロデューサー:高桑忠男
音楽:梅林茂
主題歌:「無敵のビーナス」GO-BANG’S
主題歌:「香港パラダイス」GO-BANG’S
挿入歌:「River Sideに連れてって」The Shamrock
挿入歌:「CONTACT」RABBIT
編曲:埜邑紀見男
美術監督:木村威夫
美術:斉藤岩男
照明:吉角荘介
録音:橋本文雄
編集:冨田功
記録:松澤一美
装飾:松本良二
助監督:栃原広昭 片島章三
製作主任:福島聡司
製作担当:宮内眞吾
プロダクションスーパーバイザー:坂東護 王愛美
出演:斉藤由貴 小林薫 大沢誉志幸  相原勇 大竹まこと
アメリカンビスタ カラー 98分

彼氏と別れたばかりの駆け出しツアーコンダクター・湯川真美子は、最初の添乗の仕事が憧れのパリだと聞いて浮かれていた。ところが上司から言い渡されたのは似ても似つかぬ香港だった。空港に着いた一行は観光バスに乗ったが、同じ飛行機に乗り合わせていた安東と、その彼を追いかけている大石も何かと理由を付けて乗り込んできた。波乱の香港旅行は幕を開けた。真美子がツアー客のわがままに手を焼いていると、安東が突然バスを停めさせ降りた。それに気付いた大石もその後を追いかけていった。数日前、大阪の大香港博会場で名宝「キング&クイーン」が盗まれた。被害総額は20億円に及んでいた。安東は香港トライアッドの洪カンパニーにそれを高額で売りつけようとしていたのだ。

真美子が夜の香港の街に感激していたとき、怪しげな動きをする男を発見した。大石だった。真美子は、大石に盗った物を返せば警察は呼ばないと言った。一人のツアー客のパスポートが無くなっていたのだ。身に覚えがない大石は、逃げようとして思わず真美子を海に突き落としてしまった。そこをボートで通りかかった安東は、彼女を引き上げるとホテルまで送って行った。安東にデートを申し込まれた真美子は浮かれ気分だった。再び現れた彼女の前に現れた大石は、安東に気をつけろと忠告したが全く聞く耳を持たなかった。そして安東の姿が見えると真美子は一目散に駆け寄った。安東は真美子にいきなり抱きつくと、何かを耳元で囁いて崩れ落ちた。安東は左胸から血を流していた。悲鳴をあげる真美子の手を引いたのは大石だった。「逃げるんだ!」。

二人は香港の街を走り、建物の一室に逃げ込んだ。大石は、安東が喋ったことを真美子から無理矢理聞き出そうとしたが、はずみで上演中だった「中国魔術ショー」の舞台に飛び出してしまった。ゲストと間違われた真美子は、魔術師に楊貴妃の生まれ変わりの催眠術をかけられてしまった。混乱した会場から彼女を救い出した大石だったが、真美子はその催眠術のせいで自分の名や何処にいるかさえ分からない記憶喪失になっていた。

屋台的映画館

マタンゴ

  • posted at:2011-06-05
  • written by:砂月(すなつき)
またんご
東宝
配給:東宝
製作年:1963年
公開日:1963年8月11日 併映「ハワイの若大将」
監督:本多猪四郎
制作:田中友幸
原案:星新一 福島正実
脚本:木村武
撮影:小泉一
美術:育野重一
録音:矢野口文雄
照明:小島正七
音楽:別宮貞雄
整音:下永尚
監督助手:梶田興治
編集:兼子玲子
音響効果:金山実
現像:東京現像所
制作担当者:中村茂
特殊技術・撮影:有川貞昌 富岡素敬
特殊技術・光学撮影:真野田幸雄 徳政義行
特殊技術・美術:渡辺明
特殊技術・照明:岸田九一郎
特殊技術・合成:向山宏
特殊技術・監督助手:中野昭慶
特殊技術・制作担当者:小池忠司
特技監督:円谷英二
出演:久保明 水野久美 小泉博 佐原健二 太刀川寛
シネマスコープ カラー 89分

日本の南方へクルージングに出かけたヨット「アホウドリ号」。その船にはオーナーで笠井産業社長の笠井雅文、同社の社員で艇長の作田直之、新鋭の推理作家・吉田悦郎、臨時雇いの水夫・小山仙造、城南大学助教授・村井研二、そしてクルージングに初参加した同心理学教室勤務の相馬明子と歌手の関口麻美が乗っていた。当初、快晴だった空は夜が更けるにつれて雲に覆いつくされた。九州に接近している低気圧によるもので、小山は引き返した方がいいと作田に助言した。作田に意見を求められた笠井は、君に自信がなければ引き返せばいいと突っぱねた。多少揺れた方が旅の醍醐味があるという吉田。そんなことへっちゃらだと強がる麻美。彼らの話を聞いて不安がる明子に、笠井は最高に金を掛けて作らせたヨットだから心配ないと言った。だが予想以上に海が時化たため、笠井は引き返す決断をした。落雷で無線が使用不能となり、強風でマストが折れ、エンジンが故障した「アホウドリ号」は高波の中をさまよった。

ヨットは穏やかになった海に転覆することなく浮かんでいたが、方向探知機が壊れていたため現在の位置を把握することは出来なかった。笠井は作田を非難したが、君は僕の言うことを一度でも聞いたことがあるのかと反論した。麻美がつけたラジオのニュースで自分たちのことが報じられていることを知ったが、ヨットが深い霧に包まれていたため彼らを見つけ出すことが困難になっていることを知り皆愕然とした。当て所なく漂流する「アホウドリ号」。それから幾日が経ったある日の朝、デッキに出た小山が島を発見した。ようやく海岸にたどり着いた7人は暗くなる前に食料を確保することにしたが、ジャングルを歩き回っても口に出来そうなものを見つけることは出来なかった。霧が出始めたため先を急いだ作田と小山は水の音がすると仲間を呼んだ。その先の岩からは清水が湧き出し、小さな池を作っていた。頭を突っ込んでがぶ飲みする作田たち。すると小山は池の周囲の石が人為的に並べられていることに気付き、この島が無人島ではないことを確信した。人が歩いた形跡のある道があることから、島の反対側には家があるに違いないと信じて歩いた。だが目の前には小高い山が聳えていた。皆の体力に限界が見えてきた頃、高台から海岸を見下ろすと船の姿があった。彼らは海岸まで降りて助けを呼んだが、その船は朽ち果てた難破船だった。誰かが住んでいると信じて船内に入ったが、カビに覆われて人の気配を感じることは出来なかった。海水を汲み上げるポンプと放射能測定器が積まれていることからこの船が海洋汚染調査船であると想像出来た。村井が船室の戸棚を開けると、「放射能の突然変異による実例」というラベルが貼られた標本が並べられていた。標本の周りにカビが生えていないことから、消毒薬が効いているに違いないと考えた作田は室内から石炭酸の入ったボトルを見つけたが、その横にあった木の箱が気になり開けた。すると中には巨大なキノコが入っており、「マタンゴ キノコの一種 この島で初めて発見された新種」と書かれたラベルが貼られていた。

屋台的映画館

怪談新耳袋 ノブヒロさん

  • posted at:2011-05-22
  • written by:砂月(すなつき)
かいだんしんみみぶくろのぶひろさん
怪談新耳袋劇場版製作委員会(ビーエス・アイ=キングレコード)
配給:パンドラ
製作年:2006年
公開日:2006年7月22日
監督:豊島圭介
プロデューサー:丹羽多聞アンドリウ 山口幸彦
ラインプロデューサー:鈴木浩介
原作:木原浩勝 中山市朗
脚本:加藤淳也
撮影:金谷宏二
音楽:遠藤浩二
主題歌:「HORIZON」諫山実生
カラリスト:宇津野裕行
美術:橋本優
録音:滝澤修
照明:田村文彦
編集:木村悦子
造型:西村喜廣
助監督:荒川栄二
ポスプロマネージャー:宮田三清
製作担当:本間隆廣
製作協力:HONEY BUNNY Inc.
出演:内山理名 平田満 高橋和也 田島令子 岩本千波
アメリカンビスタ カラー 89分

デザイン総合・T&K工房に勤めるシングルマザーの里中悦子は、洋画家・島崎信弘の洒落た一軒家を訪問した。依頼した油絵を受け取り、それを先方へ送ることになっていたのだが、信弘はまだ出来ていないから今すぐ描くと言った。そして「先生って柄じゃないから、ノブヒロって呼んで」と付け加えた。悦子は戸惑いの表情を見せた。作品を仕上げ悦子に渡したノブヒロは、彼女に男と女の絶対的な愛はあるのかと聞いた。そして死へ向かう追い詰められた男女の心情を、持論を交えて展開した。悦子はその意見に対する自分なりの考えを言葉で表したが、ノブヒロはそんな彼女に絵のモデルにならないかと誘った。仕事の便宜上、渋々ながらもモデルを引き受けた悦子にノブヒロは様々な注文を付けた。慣れないモデルに苦闘する彼女の表情を見た悦子をノブヒロは、彼女を「エッちゃん」と呼んでリラックスさせることにした。仕事との両立で多忙な毎日を送る悦子だったが、次第にアトリエが安らぎの場所へと変わって行った。二人は価値観や悩みを本音で打ち明けるうちにお互いの考えを共有するようになっていったが、ノブヒロは未完成の絵を悦子に決して見せようとはしなかった。

アトリエに置かれた一枚の絵が悦子の目に留まった。ノブヒロはその絵のモデルである曽祖父の話を始めた。男には家庭があったが旧家の娘と恋に落ち、それを知った周囲人たちは反対して二人の仲を裂こうとした。反発した二人は手を取り合い崖から身を投げたが、娘は海へ転落し男は木の枝に引っかかってしまった。不自然に体が捻じ曲がった男はそこで息を引き取ったが、手は娘を求めるように海面へ伸びていた。ノブヒロはその男の想いを遂げさせたいと考えていた。

二人の仲が深まり、悦子はノブヒロを一人娘の彩香に会わせたが、何故か彼が近づくとひどく怯えた。その夜、寝室の彩香は悦子に言った。「彩香ね、あの人、怖い」。悦子の母・和歌子は悦子のことをとても心配していた。結婚のときも離婚のときも一人で勝手に決め、今度の交際相手についても何の相談も無かったからだ。それに彩香のことも気にしていた。翌日、悦子は母親のことをノブヒロに話したが、彼の様子がいつもと違っていた。ノブヒロは、悦子と会えて本当によかった、こんなに充実した日々は無かったと感謝の言葉を並べた。そして自分はもうすぐ死ぬかもしれないが、死ぬことはちっとも怖くないと言った。突然の意味深長な告白に悦子は驚きを隠せなかったが、帰り際に思い切ってその言葉の意味を聞いてみた。するとノブヒロは、予定の日でないにも関わらず翌日も来て欲しいと懇願した。悦子は、いつもよりも遅くなるかもしれないが必ず来ると約束した。

約束の日、彩香が高熱を出し悦子は会社を早退すると付きっ切りで看病した。その夜、玄関のチャイムが鳴り、ドアを開けた悦子は廊下に血が点々と落ちていることに気付いた。彼女がその跡を追って行った先にノブヒロが立っていた。悦子は無言のノブヒロに謝り続けた。翌日、二人の刑事が悦子を訪ねて会社にやってきた。ノブヒロが自宅の階段から転落して死んだというのだ。死亡推定時刻は午後9時頃だったが、悦子はそれを聞いて驚いた。その時間はノブヒロと会っていたのだから。

屋台的映画館

プロフィール

HN:
砂月(すなつき)
性別:
非公開
自己紹介:
ブログ主はインドア派大分トリニータサポーター

 

フリーエリア

 

P R